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ユーザー体験をデザインするとはどういうことか? UXデザインの本質とは

ユーザー体験をデザインするとはどういうことか? UXデザインの本質とは

「UXデザイナー」という職業は、現在のデジタルプロダクトの現場において重要な存在であることは間違いありません。UXは「User eXperience」、つまりユーザー体験を指します。UXデザイナーと改めて言うと仰々しく感じてしまいますが、実は私たちは日常的にユーザー体験のデザインをしているのです。

 

この記事では、「ユーザー体験のデザイン」とは具体的に何を指すのか、専門職であるUXデザイナーの役割は何なのかを紹介したいと思います。

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UXデザインは特別なスキルではない

パブロ・ピカソが「子どもは誰でも芸術家だ」と言ったように、何かを創造することは、全ての人間が生まれながらに持っている基本的な能力のひとつです。

 

UXデザインにも同様のことが言えます。あなたがエンドユーザーのことを考えるとき、それはすでにユーザー体験をデザインしていると言えるのです。

 

では、日常の業務の中におけるケーススタディを紹介しましょう。

ケーススタディ1: カスタマーサポートの品質向上

あなたはカスタマーサポート(CS)のマネージャーです。定期的に実施している顧客アンケートで「待ち時間が長い」というクレームが多くなってきたため、それを解決することになりました。

 

この問題に対する解決方法はさまざまでしょうが、ユーザー体験の向上を目的とした場合、解決方法は必ずしも待ち時間を短くすることではないことがあります。たとえば、体感時間を短くするために保留音をユーザーの興味を引くポップミュージックにしたり、保留音の代わりによくある質問について回答を流したりすることでも解決できるかもしれません。

 

しかし、クレームを解決するために、単に待ち時間を短くすることはユーザー体験をデザインしているとはいえません。確かに表向きの問題は解決しますが、待ち時間が短くなれば個別の対応が粗くなってしまい、ユーザー体験は向上せず、いずれ別の問題が起きるでしょう。ユーザーが本当に問題としている事象は何なのかを考え、解決策を検討することが重要です。

ケーススタディ2: 問い合わせフォームの改善

あなたは新規クライアント獲得のために、自社Webサイトに以下のようなお問い合わせフォームを作ろうとしました。しかし、デザイナーから提出された最初の案は以下のようなフォーム。このデザインのどこが問題なのでしょうか? 考えてみてください。

いろいろな課題が発見できるかと思います。

 

たとえば、ユーザーが上から順に文字を追っていくことを考えれば、「※は必須です」という項目はフォームのできるだけ上にあった方がよいでしょう。また、最終的に必要だとしても問い合わせるためだけにいきなり住所を入力したい人はいないはずです。ここで住所の項目が本当に必要なのかどうか、考えてみる必要があります。

UXデザインのプロセス

紹介したケーススタディからわかるように、多くの人は問題を見つけるために、使う人の立場から解決策を考えたのではないでしょうか。この時点で、すでにあなたは「共感」と「(問題の)定義」というUXデザインの最初のステップを踏んでいるのです。

 

UXデザインは、「共感」「定義」「創造」「試作」「テスト」という以下の5つのステップを繰り返していきます。これは「デザイン思考」と呼ばれるもので、UXデザインよりもさらに抽象的な概念です。ロジカルシンキングのメソッドであるデザイン思考は、スタンフォード大学のd.schoolから始まり、現在はデザインの分野だけでなくエンジニアリングや経営にまで波及しています。

問題を発見したら、次にやることは明確です。その問題を解決するためにはどうすればいいのか。それを考えた後、試作品を作って使い勝手をテストし、期待した効果が得られればそれをソリューションとして採用します。

 

問題の発見から解決に至るまで、何ら目新しいことではないでしょう。「デザイン思考」と言うと特別に聞こえますが、実態はビジネスの基本であるPDCAサイクルを、より詳細に定義しているだけです。このようにUXデザインは全く新しい概念ではなく、むしろ今までのさまざまな知識を活用した派生的な概念にすぎません。これが理解できれば、あなたもUXデザイナーだといえるでしょう。

UXデザインはその言葉の歴史的文脈から「UI/UX」などとUIとひとまとめにして扱われがちですが、ここまで説明してきたように、本来的にはUIとUXは全く違う役割を持っています。ロジカルシンキングをもって、ユーザーを中心としたPDCAサイクルを回すことができれば、その人はすでにUXデザイナーなのです。

 

ただ、現実としてはUXという言葉が使われることが多いIT業界の主要メディアは2次元のディスプレイであり、そのUIはユーザー体験の主軸であるため、UIデザイナーがUXデザインに対して大きな責任を担っていることは事実です。問題を発見しても、それを解決する技術がなければUXデザイナーとしては不十分でしょう。

職業としての「UXデザイナー」

では、誰もがすでにUXデザインをしているとすれば、プロのUXデザイナーの仕事はいったい何なのでしょうか?

 

UXデザイナーに必要とされる能力はさまざまですが、プロダクトを直接作っていく能力が重視される従来のデザイナーという職種と比べると、どちらかと言えばコンサルタントに近い印象を持つかもしれません。

 

以下は必要な能力の一例です。

 

・チームを正しい方向に導くファシリテーション能力

・チームをまとめ上げるリーダーシップ

・ユーザー調査の知識

・成果を追求する姿勢

・発想を形にする力

 

考え方やコミュニケーション能力のようなソフトスキルが多いように思います。これはプロダクト単体ではなく「ユーザー体験」そのものを改善することを目的としたUXデザインの性質上、プロジェクトに関わるさまざまなセクションのメンバー全員が「UXデザイナー」として参加しなければUXデザインが成り立たないためです。

 

横断的なメンバーをまとめあげるのは、プロの「UXデザイナー」の最も重要な役割のひとつです。

 

ユーザーの立場に立って問題を解決しようとするとき、あなたはすでにUXデザイナーなのです。しかし、UXデザインは個別の努力だけでは成り立ちません。もしもあなたがより大きな課題を解決する立場になりたいと思うのであれば、UXデザイナーという仕事を目指してみてもいいかもしれません。

村井泰人

インハウスデザイナーを経験後、デベロッパーとして株式会社LIG、株式会社グッドパッチに勤務。現在はフリーランスとしてUX戦略およびプロダクト開発支援を行う。